東京地方裁判所 昭和35年(ワ)5300号 判決 1962年7月25日
判 決
原告
杉山吉良
右訴訟代理人弁護士
鎌田英次
被告
株式会社国際ラジオセンター
右代表者代表取締役
塩次秀雄
右訴訟代理人弁護士
川田三郎
同
松井正道
右当事者間の昭和三五年(ワ)第五、三〇〇号契約金等請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
原告の請求は、棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
(請求の趣旨)
原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し、金六百万円及びこれに対する昭和三十六年九月二十三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、次のとおり述べた。
(請求の原因)
一 被告は、放送映画音楽の録音、ラジオ、テレビ番組及び映画の企画製作等を業とするものであるところ、昭和三十一年十一月二日、小笠原武夫をその代理人として、原告の代理人伊勢寿雄と、「(一)原告は、その撮影にかかる十六ミリカラーフイルム(ネガフイルム)九十四本(一本の長さ百フイート)を被告に交付し、被告が外務省の企画により製作することとなつたブラジル移民の宣伝啓蒙用の映画に転用させること。(二)被告は、右フイルムの撮影実費金五百万円を右転用の対価として原告に支払うべく、内金三百万円を直ちに原告に送付すること。」とする旨の契約(以下、第一契約という。)を締結した。ちなみに、前記フイルムは、原告が昭和三十年六月から翌年秋頃までに、ブラジルにおいて、みずから企画した同地における日本移民の実態を中心とした宣伝啓蒙用映画のため撮影したものであつた。
二 しかして、原告は、その頃、右九十四本のフイルムを被告に交付したが、これだけでは被告の製作すべき前記映画に十分でなかつたため、昭和三十二年一月二十五日、被告は、原告の代理人伊勢寿雄と、次のとおりの契約(以下、第二契約という。)を締結した。すなわち、
(一) 外務省の企画による前記宣伝啓蒙用映画(十六ミリ、カラー、約二千フイート)及び一般上映用記録映画「アマゾン」の製作について、被告は、原告を共同製作者とし、その撮影を原告に委嘱すること。
(二) 両映画の製作費は、被告の負担とすること。
(三) 原告は、撮影に当り、被告のプロデユーサー江口航と打ち合わせのうえ、製作方針を決定すること。
(四) 一般上映用映画の配給に関しては、後日、配給会社である映配株式会社、被告及び原告の三者が協議のうえ、決定すること。
しかして、原告は、第二契約に基き、被告と共同で、フイルム四十三本を撮影した。
三 仮に第一契約がなかつたとしても、原告及び被告は、前項の第二契約において、宣伝啓蒙用映画「ブラジルは招く」の製作費は、すべて被告において負担する旨確約したのであるが、この契約締結に先だち、原告の撮影した前記フイルム九十四本の製作費を金五百万円と見積ることについて原、被告間に合意が成立したのであるから、この九十四本を主柱とし、これに一部追加撮影したものを合せて編集して「ブラジルは招く」が製作された以上、被告は、右九十四本の製作費として、金五百万円を原告に支払う義務があることは、いうまでもない。
四 被告は、宣伝啓蒙用映画「ブラジルは招く」、または、少くとも、前記各フイルム及び各シヨツトについて、被告と共同し、または、単独で、著作権を有するものである。すなわち、
(一) 右完成映画「ブラジルは招く」は、前記のとおり、原告が撮影した九十四本のフイルム及び原告が被告と共同して追加撮影したフイルムを編集して製作完成されたものであるから、原告は、この映画について、被告と共同で、原始的に、著作権を取得したものである。
(二) 仮に右(一)の主張が理由がないとしても、前記各フイルムについては、その一シヨツトごとに原告の創造的思想が表現されており、また、各フイルムの一本ごとに、原告の創造的思想が、各シヨツトの順序、配列として表現されているから、原告は、前記各フイルムの一本ごと、または、その一シヨツトごとにつき、いずれも著作権を取得したものである。もつとも、第二契約に基き原告が追加撮影したフイルム四十三本については、原告は、その共同製作者である被告と共同で、その著作権を取得したものである。
五 しかるに、被告は、ほしいままに、前記各フイルムをシヨツトごとに分断し、あるいは、シヨツト自体をも分断使用して、宣伝啓蒙用映画「ブラジルは招く」を製作し、そのプリント五本を海外協会連合会に納入するとともに、そのプリントを、著作者である原告に無断で、北海道海外協会ほか山形県その他の県の海外協会、大阪商船株式会社、富士フイルム株式会社に売却し、さらに、この映画を東京放送テレビその他をして、数回にわたり上映させたが、被告は、これらの行為により故意または、少くとも過失により、原告の前記著作権を侵害したものである。
六 原告は、被告の右著作権の侵害により多大の精神上の苦痛を受けたが、これに対する慰藉料は、少くとも金百万円を超えるものがある。すなわち、原告は、昭和二年から昭和五年に至るまで、パラマウント・ニユース社極東支部において、ニユース映画カメラマンとして勤務したのを初めとし、爾来各方面の委嘱により、報道写真、ニユース映画、宣伝用写真等の製作に従事し、昭和十六年日本写真家協会の創立委員となつてから現在まで、その理事の職にあり、現在杉山写真研究所を主宰し、その作品としては、昭和二十九年製作の映画「奥日光の雪」、映画「奥日光の四季」等があり、写真撮影業界において、現在確固たる地位にある。
他方、被告は、昭和二十八年四月二十三日設立、資本の額金八千万円、放送映画音楽の録音、貸スタジオ、ラジオテレビ番組、映画の企画製作等の事業を相当手広く営み、その役員には塩次秀雄、長沼弘毅等財界知名の士を擁する業界の有力会社であるから、被告の前記著作権侵害により原告の蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料は金百万円を下らないものである。
七 よつて、原告は、被告に対し前記金五百万円及び前項の慰藉料の内金百万円並びにこれらに対する本件訴状送達の日の後である昭和三十六年九月二十三日から支払ずみに至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
八 なお、被告主張の事実中、原告が、被告から、その主張の金員のうち金四十七万円の支払を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。
(被告の申立)
被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁等として、次のとおり述べた。
(答弁等)
一 原告主張の一の事実のうち、被告が原告主張のとおりの事業を営むものであること、原告がその主張の頃、ブラジルにおいて、その主張の頃、ブラジルにおいて、その主張のようなフイルムを撮影したこと及び被告が原告主張の頃、外務省の企画によるブラジル移民の宣伝啓蒙用映画を製作することとなつたことは認めるが、その余の事実は否認する。
二 同じく二の事実は、すべて認める。もつとも、被告が、昭和三十二年四月三十日、原告から交付を受けた撮影ずみのフイルム九十四本のうちには、画像が顕出しなかつたり、不鮮明なものが多数あつた。被告が第二契約において、原告を「共同製作者」としたのは、一般上映用記録映画の配給により利益を得た場合に、原告にもその配分にあずかることができるようにするため、一応、そうしたにとどまり、被告は、本件映画の製作に当り、原告をカメラマンとして起用したにすぎない。
三 同じく三の事実は否認する。
四 原告主張の四の事実のうち、「原告が完成映画について、原始的に、被告と共同で著作権を取得した」旨の主張は、弁論再開後の本件口頭弁論において初めて主張されたものであり、訴訟手続を著しく遅滞させる訴の変更であり許さるべきではない。また、右主張は、被告が、故意又は重過失により、時期におくれて提出した攻撃方法であり、これがために本件訴訟の完結を遅延させるものであるから、却下されるべきものである。
仮に、原告の右主張が訴訟手続上許されるとしても、被告は、右主張事実は、すべて否認する。未現像フイルムまたは、その各シヨツトは、いまだ「映画著作物」とはいいえないから、これにつき著作権が発生する筈はない。仮に何らかの著作権が発生したとしても、第二契約の締結に当り、原告は撮影ずみのフイルム九十四本は、これを前記宣伝啓蒙用映画及び一般上映用映画の素材として利用させるため原告に提供してその著作権を譲渡し、被告は、その謝礼として、このフイルム及び第二契約に基いて撮影されるフイルムを総合して完成される予定の一般上映用映画について、配給収益があたときは、原告にその配分にあずからせる趣旨の約定が成立したものである。
なお、被告は、第二契約に基く費用等として、(イ)ブラジルにおいてカメラ助手小林の給料として金二十四万二千五百円を、(ロ)国内において同じく金三万円を、(ハ)国内において原告の家族へ金五十七万円を、(ニ)ブラジルにおいて原告の債務弁済資金として、金三十四万二百五十円を、(ホ)国内において原告代理人伊勢寿雄に手数料立替金として金二十万円を、(ヘ)原告及び小林助手の帰国旅費として金四十二万六千八百十六円を支払つた。
五 原告主張の五の事実のうち被告が、宣伝啓蒙用映画「ブラジルは招く」の製作に当り原告主張のフイルムをシヨツトごとに分断したりして編集したこと及び被告がその完成映画のブリント五本を海外協会連合会に納入したほか、原告主張のとおり北海道海外協会ほか県の海外協会及び大阪商船株式会社にこのプリントを一本ずつ売却したことは認めるが、その余は否認する。右フイルムを編集して映画を製作することは、第二契約において、原告の承諾したところであり、右完成映画のプリントを北海道海外協会その他県の海外協会及び大阪商船株式会社に売却したのは、注文者であり、かつ、承継著作権者である海外協会連合会の積極的勧奨のもとに行われたものであり、もとより原告の承諾の範囲外のことではない。なお大阪商船株式会社はブラジル移民の運送を引き受けるものであり海外協会連合会の政策実現に協力していた特殊の関係にあるものである。
六 原告主張の六の事実のうち、被告に関するものは認めるが、その他は争う。
(証拠関係)(省略)
理由
(争いのない事実)
一 被告は、外務省の企画により、ブラジル移住の宣伝、啓蒙用の映画を製作することとなつたこと及び被告は、原告が、みずからの企画により、さきにブラジルにおいて撮影した同地移住者の実態を中心とした宣伝啓蒙映画のための十六ミリ、カラーフイルム九十四本及び原告が被告の委嘱により撮影したフイルム四十三本(いずれもネガフイルム)を現像編集のうえ、宣伝啓蒙用映画「ブラジルは招く」を製作したことは、当事者間に争いがない。
(第一契約に基く請求について)
二 原告は、被告は、第一契約において、原告に対し、前掲フイルム九十四本の撮影実費金五百万円を、該フイルムを被告の製作する映画に転用する対価として支払うことを約した旨主張し、甲第二号証、同第三号証の二、証人伊勢寿雄の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)を総合すると、原告の右主張事実を肯認しうるかのようであるが、証人伊勢寿雄の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)中、右原告の主張に符合する部分は、成立に争いのない乙第二号証、証人小笠原武夫の証言により、いずれもその成立を認めうべき乙第六、第八号証、証人江口航(第一回)及び同小笠原武夫の各証言に徹し、信をおきがたく、甲第二号証、同第三号証の二の記載も、それだけで、原告の前示主張を肯認することはできないし、他にこれを支持すべき資料はない。
また、原告は、原被告間に、原告がすでに撮影したフイルム九十四本の製作費を金五百万円と見積る旨の合意が成立した旨主張するが、(中略)これを認めるに足る証拠はない。
しかも、かえつて(証拠)を総合すれば、原告が、さきにみずから企画撮影したフイルム九十四本を被告の製作する映画のために提供することとした際、原告から、原告がブラジルにおいて費消した金五百万円のうち金三百万円程を原告に送金してほしい旨の申出がされたが、原告が右金五百万円の内訳を明示しえなかつた等の事情もあつて、被告がブラジルに送付すべき金額も確定せず、したがつて、原告の申し出た送金のことも実現するに至らなかつた事実が推認されるから、被告が右九十四本のフイルムを被告の製作する映画のため転用させる代償として金五百万円を支払う旨の契約(第一契約)、または、右九十四本の製作費として金五百万円を被告において負担支払うべき旨の合意が、原被告間に成立したことを前提とする原告の請求は、理由がないものといわざるをえない。
(著作権侵害を理由とする請求について)
三 被告が、原告が被告の映画製作のため提供したその撮影にかかる前掲フイルム九十四本及び原告が被告の委嘱により、撮影したフイルム四十三本(いずれもネガ)を分断使用して映画「ブラジルは招く」を製作したことは、前記のとおり、当事者間に争いがないところ、原告は、まず、右完成映画について、原告は、被告と共同して原始的に、その著作権を取得したものである旨主張するが、本件において提出援用されたすべての証拠に微しても、この主張を裏づける資料は、一つとして見当らない。あるいは、原告は、前掲当事者間に争いのない事実関係から、当然に、原告が右完成映画の著作権を、原始的に取得したと主張するのかもしれないが(この点は、原告の主張では、必ずしも明確ではないが)、一般に映画の撮影に従事したカメラマンが製作された映画について著作権を取得するものであるとする見解を是認すると否とにかかわりなく、前掲のような事実関係のもとにおいて、原告が、その映画の一部にしかすぎない部分の撮影に当つたからといつて、当然に前記完成映画の著作権を取得するものということはできないといわざるをえない。もつとも、前記第二契約において、「被告は、宣伝啓蒙用映画及び一般上映用映画の製作に当り、原告を共同製作者として撮影を委嘱する」旨約したことは当事者間に争いのないところであるが、原告及び被告が被告を前記完成映画の共同製作者とすると約定したところで、そう約定したことだけから、被告が、直ちに、該映画につき原始的に著作権者となりうるものでないことはいうまでもないことであるから、(しかも、著作権の承継取得は、原告の本件において主張しないところである。)この原告を共同製作者とする旨の約定が、どんな意図のもとにされたものであるかを詮索するまでもなく、この約定だけで、原告の前示主張を肯定することはできない。
なお、被告は、原告の前示主張に関し、この主張は訴訟手続を著しく遅延させる訴の変更であるとか、あるいは、時期に遅れて提出された攻撃方法であるとか論難するが、原告が完成映画につき著作権を有する旨の主張は、原告が提出した昭和三十五年九月二十一日付準備書面(第一)及び昭和三十六年一月二十八日付準備書面(いずれも昭和三十六年六月二十六日午前十一時三十分の準備手続期日において陳述)に記載されており、記録を精査するも、その後、これを明確に撤回したことを窺うことはできないから、被告が原告が再開後の本件口頭弁論期日において、前示主張を明確にしたことをもつて、訴の変更とか新しい攻撃方法の提出とかいうことは、適切を欠く。したがつて、被告が前示主張が訴訟手続上許されないものとして「許さず」とか「却下する」との裁判を求めることは、全く理由がないものというべきである。
さらに原告は、「原告は前掲各フイルムの一本ごと、またはその一シヨツトごとにつき著作権を有する」旨主張する。
しかして、当事者間に争いのない第二契約成立の事実に、(証拠)を参酌総合すると、
(一) 原告は、さきに、外務省またはその関係団体からの発注を予想ないしは期待して、ブラジルにおいて、同地における移住の宣伝用映画を製作すべく、その撮影にかかつていたが、外務当局は、原告の希望にもかかわらず、原告を差しおいて、被告会社に、この映画の製作を依頼したこと。
(二)原告は、折角の自己の企画が採用されなかつたため、それまで支出した費用のことなどのこともあり、少なからず困惑したが、その後、伊勢寿雄の尽力に加えて現地外務官憲の斡旋もあつて、結局、原告は、被告の右映画の製作に協力し、原告が、この映画に使用すべきフイルムの撮影に要した費用は被告において負担支出することとなつたこと。
(三) その結果、原告は、すでに撮影ずみの前掲フイルム九十四本を被告に提供して被告の製作する映画に使用させることとなり、これを未現像のまま、被告に送つたこと。
(四) 右九十四本以外の部分については、被告の委嘱により、原告が、被告と打ち合せた製作方針に基き、その撮影に当ることとなり、原告は、引き続き、ブラジルにおいて、被告会社のブロジユーサー江口航と協力のうえ、さらに四十三本のフイルムを、助手小林とともに撮影し、このフイルムは、未現像のまま、被告に送られたこと。
(五) 撮影費用は、一切被告において負担し、原告は、この映画を一般用映画として配給することによつて得た利益から製作に要した実費を控除した残額につき三十パーセントの配分を受けることとなつたこと。
(六) 被告会社においては、ブラジルから送られた前記フイルムを現像のうえ、内地において撮影したフイルムと合せて適当に編集してブラジル移住の宣伝啓蒙映画「ブラジルは招く」一篇を製作したこと
を認定しうべく、(中略)他にこれを左右すべき証拠はない。
しかして、右認定の事実関係のもとにおいては、仮に原告がその撮影にかかるフイルム、または、その一シヨツトごとに、その主張のような著作権を取得したとしても(それ自体相当疑問の余地なしとしないが、結局、本件においてはさまで決定的な意味をもつことでないことになるので、その当否に触れることは避けることとする。)、被告において、これらのフイルムまたは、その中の各シヨツトを分断使用して映画「ブラジルは招く」を製作したことをもつて、その著作権を侵害したものということはできない。けだし、原告が撮影したフイルムを使用して映画を製作する場合に、製作者である被告が、その製作方針に従つて各フイルムまたは、そのうちのシヨツトを、事実上分断接合することは、映画製作の技術として、社会通念上、むしろ通常のことであり、したがつて、原告が、前認定のようにその撮影にかかるフイルムを使用して完成映画を製作することを承諾したことは、とりも直さず、被告が右フイルムを、その編集の方針に従つて、適当に分断したりすることを承諾したものと解するのが相当だからである。この場合映画製作担当者が撮影者である原告の意思なり創造力を十分に評価尊重することをしなかつたとしても、原告が被告にその使用を許した以上(その動機がどうであろうと)、権利侵害を云々しうべき筋合ではない。
したがつて、被告において、前記各フイルムを使用して映画を製作するに当り、さらに原告の承諾または指示を要する旨の留保があつた事実を窺うに足る何らの資料もない本件においては、フイルムないしはシヨツトを分断使用したことをもつて、原告のこれに対する著作権侵害なりとする原告の請求もまた理由がないものというほかはない。
また、原告は被告が前記フイルムを使用して製作した映画「ブラジルは招く」のプリントを原告の同意を得ることなく、北海道海外協会等に売却し、東京放送その他にこのフイルムを上映させたのは、原告の前記フイルム、また各シヨツトに対する著作権の侵害であると主張する。しかして、被告が右映画のプリント五本を海外協会連合会に納入したほか、北海道海外協会ほか県の海外協会及び大阪商船株式会社に同映画のプリント一本ずつを売却したことは、被告の認めて争わないところでありまた、昭和三十三年九月二十八日、日本テレビのテレビ番組「二十世紀」において原告が撮影した前掲フイルムの一部が被告の許諾を得て上映された事実のあることは(証拠)により、これを認めうるところであるが、(証拠)並びに本件口頭弁論の全趣旨を綜合すれば、前記フイルムを使用して映画(のうちに題名を「ブラジルは招く」とされた。)を製作するについては、原告及び被告は、そのプリントを海外協会連合会に納入するほか、海外協会連合会より支払われる代金が製作に要する費用に比して多くなつたので、これを利用して一般上映用記録映画を編成する等できるだけこれによる収益の増大を図り、挙げえた収益から製作費を控除(「トツプオフ」と関係者は称していた。)して、その残額を原被告において適当の割合で分配しようとの約定のもとに、この事業に着手したことが窺えるから、被告が、この完成映画のプリントまたはその素材であるフイルムを前認定のとおり、売却また上映を対価を得て許諾したことは、原被告間に成立した当初の約定の範囲を出たものと認めることはできない。しかも、原告において、そのみずから撮影したフイルムを使用して製作された映画のプリントが一本でも多く売れ、またはこれが経済的に使用されることを拒否すべき正当の事情のあつたことを認むべき何らの証拠もないのであるから、被告において前記のとおりプリントを売却し、また、そのフイルムをテレビ放送に使用させることは、原告も被告との約定の当初において一般的包括的に同意していたものと認めるのが相当である。したがつて、原告がそれらによる収益の約旨に基く分配を請求するのは格別、たとえ、個別的同意はなかつたにもせよ、これをもつて、原告の権利侵害ということはできない。
なお、甲第十一号証及び原告本人尋問の結果(第二回)によれば、昭和三十七年一月二十三日東京放送のテレビ番組「その人に会つてみましよう」において、原告がアマゾンで取材したフイルムが上映された模様であるが、このフイルムは被告が放送用に提供したものである旨の原告本人の供述部分(第一、二回)は、多分に推測的であり、証人江口航の証言(第三回)に比照し、にわかに信をおきがたく、他に、この点に関する原告の主張を肯認するに足る証拠はないから、原告の前示主張は、結局採用することはできない。
(むすび)
四 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、進んで他の点について判断をもちいるまでもなく、いずれも理由がないものといわざるをえない。
よつて、原告の本訴請求は、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第二十九部
裁判長裁判官 三 宅 正 雄
裁判官 楠 賢 二
裁判官 竹 田 国 雄